主なキャスト(敬称略)
杉原千畝:吉川晃司
杉原幸子:鈴木ほのか
ノエル:坂元健児
エバ:白羽ゆり
杉原節子:片山陽加
松岡洋右:山本芳樹
シモン:Kimeru
ニシュリ:和田琢磨
ジョン/ファルバスク:永山たかし
グッシェ:栗原英雄
ガノール/ソ連将校:熱海将人
ルネ:水野栄治
踊り子/ユダヤの民:徳垣友子
外務省秘書官:宮本竜圭
ローゼンツ:あぜち 守
ジョゼフ/陸軍将校:河内喜一朗
エリーゼ:マルシア
カイム:沢木 順
ニーナ:近藤亜紀
ソリー:山田瑛瑠
弘樹:小島幸士
※およそパンフレット掲載順
Wキャストは判別できたと思われる方のみ記載
@新国立劇場 中劇場 1階8列上手
初見ですが、今回が再演だそうです。どうやら今回の上演に際して台本を大幅に改訂されたとか。初演を見ていないので比較はできませんが、あれだけ難しい(と私は感じる)政治情勢にも関わらず、わかりやすく見せていたと思いました。場面を切り取ったり、舞台上に動きをつける襖状の装置に当時のヨーロッパ地図が描かれ、舞台となる都市がマークされているので、どれだけ離れた場所で人々が祈っていたかが、開演前に席に座っているだけでもわかります。また、本編中では場所のテロップも出るしマークも点灯するので、見逃さなければ迷子にもなりませんでした。
ただし情報不足だと感じた点がひとつ。物語の視点および主役の関係上、描かなかったのだと推察しますが、ユダヤの民がどれほどの迫害を受けていたかが不明瞭だったことです。生活を捨ててまで長距離を、それですら賭けの様な感じで必死に逃げるのですから、それくらい酷く不当な扱いを受けていたことは舞台を見れば想像はできると思いますが…そのことを具体的に知らなければ、一発ですとんと腑に落ちるくらいの説得力には欠けるかなと思いました。でももしその辺りまで描いていたらきっと焦点がぼやけてしまうし、それこそ「シンドラーのリスト」並の大長編になってしまい、「ヘンリー六世」のような上演形態をとらなくてはならなかったかもしれませんね。
どうやら海外公演まで望まれていた本作のようですが、今回は新国立劇場の舞台機構に特化した演出らしいので、地方公演さえできぬのだとか。そういう要望へのせめてもの報いなのか、英語字幕つきの上演でした。舞台上方の鴨居みたいなところに表示されますが、10列くらいまでの前方席ですとぐいっと見上げないと読めないので、本当に字幕が必要な方には前方席は気の毒です。字幕について気になったのは、陸軍将校が強い口調で喋っているところで字幕がずれていたようだったこと。確か外務省の人に言う“それだから我々は血と汗を流しながら最前線で戦っているんだ!”という台詞だったかと思いますが、そのあと(落ち着きを取り戻して“杉原が無断でビザを発行することは無いとは思うが、大事な時期なのでな”といった風な台詞)になっても暫く切り替わっていませんでした。英語と日本語を読み比べても面白そうだったので、対訳台本も販売して欲しいな。
奥様のお書きになった
本を読んだ時は、人間が根源的に持っている美しく優しい心のお話という印象だったのが、舞台ではかなりの英雄譚になっているように感じられて、この印象の違いにまず驚きました。そういう風に作らないと見る側を引き込めないのかもしれないけれど、書き手や創り手がかの人をどのように見つめていたかの違いもあるのだろうなと思っています。
あととても感動したことがあって、千畝さんとシンドラーは最後に似たことを言うんだなと。千畝さんはこの舞台で、シンドラーは映画でしか存じませんが、いずれも物語の最終盤でご自身の選択について責めるようなことを口にします。
千畝さん:あと一日早く決断していれば、もっと多くの人を救えたかもしれない。それだけが心残りだ。
シンドラー:このバッジは金だからあとふたり救えた、いやひとりでもいい、人間ひとりだぞ。しかし私はその努力をしなかった…
自分にでき得ることに力を尽くしたひと、そういう決断をできるひとの思考はやはり似通っているのでしょうか。千畝さんが日本のシンドラーという異名をとったのが、妙に納得のゆく言葉でした。
以下、本編に具体的に触れた感想です。ツイッターでは気にせず書きましたが、ここではネタバレと思われる箇所は白抜きにしておきますので、必要な方はドラッグしてお読みくださいませ。割と白い分量が多めかも(笑)。