「ドン・ジョヴァンニ」(音楽:フレデリック・ショパン モーツァルトの主題による)
ヴァリエーション1:川島麻実子、河谷まりあ、沖 香菜子
ヴァリエーション2:阪井麻美
ヴァリエーション3:高木 綾、岸本夏未
ヴァリエーション4:西村真由美
ヴァリエーション5:奈良春夏
ヴァリエーション6:上野水香
シルフィード:吉川留衣
「パキータ」、「グラン・パ・クラシック」、「エチュード」のようなクラシックバレエの技巧パレード系(苦手分野;)のベジャール版と言う印象ですが、こちらはお茶目で可愛くて飽きがきません。
ピアノの詩人と神童が音楽に関わっていると、やはり音符がきらきらと忙しなく瞬いて、踊りとして見た目にもかなりアップテンポでした。そんな音楽に合わせての踊りは見応えがありました。特に真由美さんはキャラクターと踊りが一体化しててブラボー!奈良さんも、この方には神聖なものを感じているのですが、今日は普通の少女のような雰囲気が素敵でした。水香さんがこれを踊ると、牧バ時代のプティ作品(デューク・エリントンくらいしか見たことはないですが)を踊っていた頃の感触を思い出します。竦めた肩越しの視線にそれを感じるのです。エスメラルダを踊るのを拝見したかったと、未だに悔やまれます。
水香さん移籍後の05年にもドンジョを一度見たけれど、大道具さんでがっかり…というオチをすっかり忘れていたので、思わず笑いました。留衣さんはそのときもシルフィードを踊られていたようです。現れると、非現実感というか、夢物語というか、少女たちの想像・夢想・妄想が部屋中をふわふわと漂っているように思われます。羽根は「ラ・シル」や「レ・シル」より大きめで、片方に光物がついているか。
「中国の不思議な役人」(音楽:ベラ・バルトーク)
無頼漢の首領:後藤晴雄
第二の無頼漢−娘:小笠原 亮
ジークフリート:柄本 弾
若い男:西村真由美
中国の役人:小林十市
目利きでも評論家でもないけれど、これぞ本物、と直感した十市さんの役人。これほどはっきりと振付が、あの不思議に歪んで洗練された美しい腕の造形が見えるなんて。それに、今までは機械人形のような印象だった役人が、今日はどう見ても人間でした。以前にカズさんと周さんの役人を、映像で首藤さんの役人を見たことがありますが、そのときのメモに共通するのは‘無表情’と‘冷たさ’。娘に対して見せる執着も、そういった表情の下で煮えたぎっていたようです。ところが十市さんの役人は、熱く滾るものが‘表出’しているのです。表情であったり、時に喘ぐ、激しい声を含んだ息遣いであったり、前三者と違ってとても表情豊かなのです。そこが、今までの役人といちばん違っていましたとはいえ、役人と娘の間に流れるものは、今まで見た中では比較的淡白な印象だったのは少し不思議なところ。
小笠原さんの視線がものすごかったのも、今日の驚きのひとつ。ものすごいと言っても、古川さん(私の中で彼の娘を超える方はまだいません)や宮本さんのようにウフンな顔をされることは殆どありません。口角をちょっと上げて微笑みの形を作ったり、獰猛な舌なめずりのように挑発的に口を開けて見せたり、といった変化は見せますが、流し目で殺すタイプかと思われました。もともとスッとしたお顔立ちで顎も細いためか娘のメイクを施しているのを見てもぎょっとしませんし、無頼漢のコートを脱いで卓子にどーんと現れたときも、案外‘普通’なのです。だからこそ、手の甲を頬に寄せて肩越しに伏目がちに無頼漢や獲物を見やる、あの静かな顔が醸す‘自然’な色気に驚いたのです。若い男の気持ちがわかった気がします、と言えるくらいには。踊りは時々、鳥のような別世界を感じるほどしなやかで、土埃臭い汚れた世界にあって異質でした。
唯一の狂気は晴雄さんの無頼漢。いちばん雰囲気がありました。娘に何度足蹴にされても気持ち良さそうに転がりながらアコーディオンを奏でる気持ち悪さと言ったらありません。もちろん褒めています。始めのうちは、娘が彼の駒か何かにも思われたましが、不死身の役人の不気味さがふたりを少しずづ同調させ、結果的に同じ穴で育った(ゴエロクの慶ちゃん流に言うなら)ブラザー!にも感じられました。
「火の鳥」(音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー)
火の鳥:木村和夫
フェニックス:柄本 弾
パルチザン:乾 友子、奈良春夏、川島麻実子
氷室 友、宮本祐宜、梅澤紘貴、岡崎隼也、吉田 蓮
彼の翼は、世界に明かりを灯す。彼の息遣いは、生命を呼ぶ。
何だか圧倒されたというか……舞台から貴いものが降りてきて触ってくれたみたいな感覚になりました。言葉にならずもどかしいけれど、カズさんの火の鳥は全身から生命を振りまいていました。観ることができて、幸せでした。08年のベジャールさん追悼公演のときのメモが、割と偏っていないように思われたので引用しておきます。
晴雄さん(フェニックス)が木村さん(火の鳥)に命を吹き込むかのようなクライマックスの場面が感動的でした。甦れ、火の鳥よ。そんな声が聞こえてきそう。2人で1体の鳥、四枚羽の神々しい鳥になる、写真でよく目にするあれはラストシーンだったのですね。実際に見ると、場の高まりをも感じられてゾクッとしました。
今日はこういう感じを全く受けなかったのですが、若手さんたちにはぜひとも更なる磨きをかけていただいて、カタルシスを極めて欲しいなと期待を寄せています。
他、パルチザンのときの奈良さんのかっこよさときたら、もう本当に堪りません!!
振付:モーリス・ベジャール
振付指導:小林十市
@東京文化会館 大ホール 1階5列どセンター