朝一番の回を狙って行ったのですが、大盛況ぶりに押されて2回目を拝見。5日前から指定席での予約ができるそうなので、時間に余裕のない場合は、そちらの方が確実に見やすい席で鑑賞できますね。
さて、本編は2幕構成。1幕はクランクインまでのドキュメンタリーで、稽古場やスタジオ仕込みの様子など、通例ならばDVDの特典映像として収録されているような貴重な内容でした。お歳の話になったときのルイジさんのお茶目な表情や、「空中のバリエーション」を見守る厳格なまでの真剣な眼差しのコントラストがとても印象的。経験の浅さからか、なかなかリフトの要領が掴めずにいるナタナエルに“フランス語で話すよ”と買って出るところでは、踊りに言葉は必要ないとはいえ、それを構築する段階ではやはり言語を必要とし、それも母国語でないと微妙なニュアンスは伝わりにくいのだな、と感じました。舞台なら一回だけれど、映像は一生残ってしまうから、ちょっとしたバランスの崩れが身体の他の部分に表れてしまわないようにしなくては、という、映像ならではの苦悩も見え、大変興味深かったです。
“ダンサーは最も美しいことをする人”という言葉もとても重みがありますね。
プティさんが、初演の映像を見ながら“目にゴミが入った”と涙をゴシゴシ拭う様子や、“ルイジ、(カテコに出て)おいで〜”とまるでご自分の子供か孫にでも接するような感じでにこにこされるのが愛情深くて良いですね。その映像に登場したご自身を見て、“このときはまだ髪があったんだね”と冗談めかして仰るのも面白くて。歩く姿もまだまだシャンとしてお若いです。「デューク・エリントン・バレエ」のカテコで舞台に上がられたのを見たのが初演のときなら、もう10年近く前だと思うのですが、そのときとあまり変わったようには見えません。いつまでもお元気でいて欲しいですね!
5分間の幕間を挟んでの2幕は、作品の間にタイトルと暗転があるのみで、間断なく通しで演じられていきます。拍手がない他は(何度拍手をしそうになったことか)、舞台と殆ど変わりません。どれもプティさんならではのエスプリを効かせつつ、「街の灯」では叙情的な雰囲気も味わえ、あっという間に時が過ぎてしまいました。草刈さんの最後の舞台を観に行った母のお勧め「小さなトゥシューズ」は、バレリーナの脚の挙動の再現力に思わず唸ってしまうほど。シューズを履く瞬間からそれらしくて、思わず笑いもこぼれます。2種類の「警官たち」も、弾むようなリズムが楽しい作品でした。池の水面に現れた鏡面像を捉えた映像も面白い。稽古場よりも足場が悪そうに見えたのは、野外という条件上致し方ないか。「空中のバリエーション」は幻想的で、真上からチュチュの広がりを見ることができるのは映像ならではだなと思いました。全体を締めくくるフィナーレの余韻が、少し寂しげではあったけれど心地よかったです。
他の作品も、古典的なバレエテクニックは際立たないものの、芝居然とした流れが気に入りました。また、「黄金狂時代」のラストシーンが、チャップリン時代の映画のようで(コマ落としと言うのでしょうか)逆に目新しく映りました。この作品での草刈さんの、ぱっちりとしたキュートな表情が好きです。
今回の作品と違うところではありますが、草刈さんとルイジさんであれば「チーク・トゥ・チーク」も見てみたかった…。