元日から行って参りました、映画館に!映画の日でもあるためか、意外と席は埋まっていましたよ。
先ず印象的だったのは、やはり中盤・この作品最大の見せ場である《第九》のシーンです。実際にエド・ハリスがオーケストラをリードしたと言うタクト捌きは圧巻。アンナとの二人三脚での指揮は、師弟の絆以上に性的な結びつきをも暗示させます。音楽の歓喜と怒濤に身も心も委ね、まさに忘我の境地と言うか、無音に限りなく近い所にいると思うのです。どんなに激しい言葉をぶつけ合っても、互いの中にある敬意が彼らを結びつけ、音楽を追求しようとする情熱的な姿勢が二人の中で交わっているような。そういう所がとても神秘的で、音楽にせよ何にせよ、芸術が崇高で本当は触れ得ないものであるのにこんなに響いてくる、そんな感じの言いようもない感動の嵐が私を激しく嬲るかのようでした…。
他には、ベートーヴェンが自分の軽率な言動をアンナに詫びて、彼女が彼の下で作曲を学ぶようになった展開。とても柔らかな物腰で、しかし情熱を湛えた目をしてアンナに教授する彼はとても素敵です。病床で、夢に聞いた音楽をアンナに伝える時の表情も良い。パンフレットにもあるように、この時の彼は完全に超越した所にいると思いました。性的云々だとか愛の云々だとかを遙か下に見るような、まさに雲の上を見ているという印象でした。
ステージの場面意外は色彩に乏しく、カサカサと乾燥した印象なのですが、そこにアンナが現れると文字通り華が添えられて画面が輝きを増す気がしました。他に、この作品では、台詞も何もない詩的なシーンがとても気に入っています。冒頭の、アンナが死に瀕したベートーヴェンに会いに行く場面と、ベートーヴェンが湖畔を散策している場面ですね。後者については、苦悩から逃れようとしているのか、自分を揺るがすような音楽が下りてくるのを待っているのか、岸辺に腰を下ろして遠くを見つめる瞳がとても好きです。この辺の詩的なと言うか寧ろ音楽的な(音楽を視覚化したような)映像については、どうも巧く言葉に出来ないし、敢えてしなくても良いとも思うのですが、私の中に強烈な印象を以って入り込んできた場面だったので記しておきます。背景に流れる音楽と、その時の人物の心情とを併せて理解するには、少なくとももう一度観なくてはならないかも知れません。が、そんな時間の無い方はパンフレットを買うと良いかと思います。音楽から見た解説が載っているのですが、私はそれが大変参考になりました。もう一度じっくり読もうっと。