主なキャスト(敬称略)
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:ホセ・ティラード
王子:ニール・ウエストモーランド
女王:ニコラ・トラナ
執事:アラン・モーズリー
ガールフレンド:リー・ダニエルズ
幼年の王子:ギャブ・パーサンド
恋をしました。この舞台に、2年前に。前回来日時はスワン役アダム・クーパー、首藤康之、ジーザス・パスターのトリプルキャストが組まれていました。都合で2回しか見に行けず、しかも殆ど1階席の最後部座席からの鑑賞。加えて一番見たいと望んだアダムのスワンは見られなかったのです。
それから時が流れ、再来日決定のニュースを聞いたときは狂喜でした。今日の舞台はまさに出会ったときの感触を思い出させてくれるものでした。
ホセのダイナミックな踊り。実際にセント・ジェームズ・パークで本物の白鳥を観察しながら一緒に踊ってしまったと言う発言通り、鳥らしい所作が光りました。ジェイソンと役柄の解釈が異なる為か、シャーッと言う唸りは一度も発さず、ジャンプも軽く、高く、王子を以前から知っていたのではと言う彼の解釈が動作の端々に感じられました。きっと其れを意識して見たからなのでしょうが。とにかく素晴らしかった。長身で、四肢が長く、本当に存在感のあるスワンでした。プリエが深いのが印象的。
最も感動したのがクライマックスである4幕。ベッドに引き上げられてから白鳥の群舞の中に飛び込んでいくまでの場面だったかと思うのですが、これはジェイソンのスワンや、以前見た首藤さん、ジーザス、DVDに収録されているアダムのスワンでは見られなかったと思いました。王子を守りたい、そのためには鞭打ってでも起き上がらないといけない、王子を守りたい、しかし傷があまりにも痛む、そういう表情をこちらに向けながらベッドに横たわるスワンが、動かないんです。物凄く痛々しかった。筋肉は完全に弛緩している訳ではないと思うのですが、直ぐには起き上がれないくらい消耗している様が手に取るように伝わってきました。双眼鏡を覗いたり離したりを繰り返しながら見ていたのですが、手にした其れを取り落としそうになってしまって、そんな経験は初めてです。
確かにこの最終幕、登場したときからスワンはボロボロでした。群れにリンチを食らったのはこれが初めてではなく、彼らの手を何とか逃れて王子の居る病室にやってきたのだといった雰囲気でした。動かない体をやっとの思いで起こし、痛みと戦う辛そうな表情の下からそれでも尚愛しげに(此方も群れのリンチを食らってボロボロの)王子を見つめ、スワンは群れの中に倒れます。其のときにホセのスワンは右手だけを揚げました。私の記憶が正しければ、今まで見たスワンは両腕を翼の基本形に従って揚げていた様に思いましたが、ホセのスワンは本当に心身ともに限界に達しているのだと言うのを非常に強く感じました。
ニール王子の話もします。彼は見たこと無いくらい表情が豊かでした。自分に愛を与えてくれようとしない母に対する、縋るような泣きそうな顔。バーを追い出された路上でスワンの存在に思いを馳せるときの、無表情に近いが遠くを見つめる憧れに満ちた目。白鳥の群れが去ったあとの公園のベンチで、生への希望に胸を高鳴らせる開放的な笑顔。それとは一変して、狂人扱いされて個室に押し込まれたときの絶望的なげっそりした顔。わーもう挙げたらキリが無いです。とても素敵な王子でした。泣き出しそうな表情が魅力的に感じたのは、ニール自身がホームシック気味だったからなのでしょうか。インタビュー動画でホセが突っ込んでいたように、本当に傷つきやすく、また儚げな印象も受けました。
そんなニール王子が、3幕で狂気に犯されてから会場に戻ってくる、其のときの装いにも注目すべき(と思われる)点が。各国の王女達とダンスをしている間はピシッと格好よく決めて、ロイヤルな立ち居振る舞いをしているのですが、再度パレスに入ってくるときは落ち着か無げに眼を見開きぎこちない足取りで、いちゃつくママとストレンジャー(このときのホセがすんごくセクシー!兎に角sexy&dangerous!女王かハンガリーの王女になりたい)の間に割って入り、これまた泣きそうな顔でストレンジャーに何か訴える。『僕を見てよ』?
そう、其のときの服の乱れ方が尋常じゃない。上着の袖は片方だけ肘までまくられ、ベストのボタンは食い違い(見間違いかも)、襟元は閉まっておらず大いに乱れているのです。王子の精神的なバランスが崩れたことが伺えます。何せ、心の支えであったスワンと同じ顔の人物が目の前に居て、彼は自分の母親に夢中なのだから、当然自分に向けられる愛は何も無くなる。王子は幻想(妄想?)と現実の境目を、この幕で完全に失ってしまうのだと思います。
幸せな時間でした……私は現実に戻らねば。笑。