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「パフューム ある人殺しの物語」
 隅々まで繊細で、きめが細かくて、美しい。映像だけでも、音楽だけでも匂い立つようではありますが、これらが全て処方通りに“調合”された時に初めて、観る側は香りで満ちた想像力の世界へ入って行けるのではないかと思います。でも何故フランス語で作らなかったのでしょうか。それとも敢えて英語で作ることで、グルヌイユの名前を際立たせようとしたのでしょうか…。


 冒頭が腐臭に満ち満ちた魚市場だからか、後半に出てくる南仏のラベンダー畑やリシ邸の素朴な美しさが良く映える。風景だけではなく、その中に配置された全てのキャラクターがそれぞれの美を放っているようにも感じます。例えば、次々と拵えられる美処女の遺体。血の気を失った体に隈なく動物性油脂を塗りたくられて横たわった姿は、さながら蝋人形のように現実離れしていて、その尋常ならざる様子に驚きはするもののつるりとしていて何だか綺麗。髪を剃られたために顔のパーツが引き立って、生前とは違った魅力(こんなことを書くと私も変態みたいですが)を放っているようにも感じられてしまいます。当然ながら、生前の彼女たちの方が活き活きしていて素敵なのですが。そういう対極のものを対比させる描き方って、両方が引き立つから好きなのですよ。

 他に印象的だった“綺麗”は、ローラの瞳。眠っている所にグルヌイユが現れて一撃を浴びせようと構えた瞬間、ローラが目を開ける。その青い瞳に吸い込まれそうになったとき、画面は暗転。人間の何万倍(どれくらいだっけ?)もの嗅覚を持つ犬でさえグルヌイユの存在に気付かなかったのに、ローラだけが何を感じたのか目を覚ます。とても印象的な深いシーンだったと思います。

 グルヌイユは恐ろしい人物。彼は娘たちを殺してまでその香りを保存するけれど、その“殺す”と言う手段は、彼にとっては良心の呵責を起こさせる後ろめたい行為では決してなく、娘たちの抵抗をなくし自分の仕事を滞りなく進めるために“縛る”のと同じ様な行為なのだと思います。いずれにせよ罪なことには変わりなく、傍から見れば変態行為に他ならないでしょうけれど、グルヌイユにとってはあくまで“必要に応じて”とった行動なのです。罪悪感は無いけれど、彼の純粋な気持ちは猟奇的。しかしそれ以上に、グルヌイユは悲しい人物。愛して欲しいのに、人が追うのは“香りを放つ僕”であり、“香りを放つハンカチ”であり、“身一つの僕”ではないのだから。母親に抱いてすら貰えなかった赤ん坊は成長して、生まれた地で自らに究極の香水をかけてでしか己の欲望を満足させられなかったなんて。最後の場面ははっきり言って怖かった。彼に寄ってくる人間が、肉の塊に群がるハイエナかハゲタカのように見えて、処刑場での場面もそうですが、人々が香りに扇動されている感じで、彼の持った力はピュアであると同時に物凄く恐ろしいものであると。人々がグルヌイユの作った香りで良い気持ちになればなるほど、彼の孤独が際立って見えて悲しくなります。

 諸所で、圧巻!と聞かれる処刑場での場面。確かにスケールは物凄いけれど、似たような画を「リバティーン」で観た気がするので衝撃的というには“処女感”が足りないと思います。私にとっては、本当のラストシーンであるグルヌイユが我が身に究極の香りをつけて愛を得(恐らくどこかしら本意でない部分もあろうと思われます)、消えていくという御伽噺的な幕切れの方が印象的でした。天を仰いだ瞳に宿った感情が何なのか、判然としない。それが心を掴んで離しません。
posted by Elie | MOVIE | comments(4) | trackbacks(19) |
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コメント
ローラの瞳のシーン。
そういえば忘れてました。
体臭がしなくても、何かを感じたのか。
第六感のようなもの、それとも運命のような・・・
小説を読めばわかるんでしょうかね〜
2007/03/09 20:30 by kossy
kossy様
コメント有り難う御座います。
あの場面が小説でどういう風に表現されているのか、気になりますね。読んでみようかしら。。
路地に入ったときも、グルヌイユの潜んでいる手前で足を止めますし、動物的な勘でも働いたのでしょうか…
2007/03/09 23:00 by Elie@管理人
こんにちは♪
TBありがとうございました。
確かに似たシーンを「リバティーン」でも感じましたし、ヨーロッパの絵画などではよく見かけるような気もしました。
せめて予告編で見せてくれなければもっと印象が強かったのにと惜しまれます。
2007/03/10 06:53 by ミチ
ミチ様、こんにちは〜
コメント有り難う御座います。
ヨーロッパの絵画、確かに見たことがある気がしますね。
実は本編鑑賞後に予告編を見たのですが、処刑場シーンと言い、アラン・リックマンと言い、見せすぎな予告編だな、と思いました^^;
2007/03/10 14:23 by Elie@管理人
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