BOOK SHELF
舞台・映画などの鑑賞記、感動をそのままに。
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シビアな現実「屋根の上のヴァイオリン弾き」
 昨年秋に再演されたミュージカルの原作本です。舞台の方でもテヴィエはよく神様と対話していますが、こちらもそんな雰囲気で、作者のアレイヘム氏に語ると言う形で書かれています。各章の題が、劇中を彩るナンバーのタイトルにそのまま反映されていて、“こんにちは、ショラム・アレイヘムさん。まさかお忘れじゃないでしょうな、私です、友達のテヴィエですよ。”と、こんな調子で始まる。この本のテヴィエには、ツァイテル、ホーデル、ハーバ(チャヴァ)、シュプリンツェ、ティベル、ビルケという娘たちがいて、ティベルについては殆ど語られませんが、末娘まで婚礼話があります。

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厩で恍惚と「エクウス」
 劇団四季での公演が決定している戯曲の原作本。本当は購入して読みたかったのですが、諸所の理由から断念し、図書館で借りることにしました。

 俳優たちの動きや照明の演出までが事細かに書かれているので、舞台上に現れるであろう具体的な情景が想像しやすかったです。これに忠実に創られているのか、どうなのか、実際を目撃するのがとても楽しみ。狂喜と正気の境目とか、そういうことにとても興味があります。あとは、アラン役の俳優が、如何に自分の芯に理性を残して激情を体現できるか…も気になるところです。

 崇めるあまり均衡が崩れ、愛するあまり手にかける。本作中で繰り返されるように、その崇め方や愛し方は極端です。それゆえに恐ろしいのは、自覚ないところで進む精神的な腐食。アラン自身が成長途上であったけれど、極端な教育がなされていたために情報に偏りがあったのではないかとも思います。だから、父親の思いがけない姿を見たときの衝撃は、ジルが同じことを知ったときのものより大きく、他の心理的な部分に歪(ひず)みをもたらした…。アランの繊細さ・神経質さ・そしてこのあまりにも純粋な狂気は、清らかな魂が世間体とか社会的な規範の概念に押し込まれるのを拒んで、必死にもがいているようにも見えるのです。狂気といっても…私が狂っているとすれば必ずしも正しくない表現ですが。

 ひとつ、これは実際に演じられる場面を観て、自分がどう感じるかを確かめたいものがあります。アランが馬の目を潰したいきさつを全て語り終えた直後に、痙攣的にダイサートにしがみつくとき、彼はダイサートに心を開いていたのか、否かということ。本心から彼にすがったのか、どうなのか、ということ。

 アランの告白にはぐいぐいと惹きこまれ、特に、馬に櫛を入れる場面と事件を起こす場面では時間と場所を忘れ、本の中に見ている世界であるというのも忘れて夢中になっていました。私の方が、恍惚としてしまっていて。
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ヘンリーの後「リチャード三世」
 「ヘンリー六世」で、岡本健一さんの熱演が記憶に新しいリチャード。エリザベスには那須佐代子さんを引き継ぎ、アンには凛とした気品のボーナ姫を演じられた内田亜希子さん、ヨーク公爵夫人には久野さんを勝手に配し…頭の中は完全にヘンリーの役者さんたちで構成されていました。気分が盛り上がるのも無理はありません。リチャードを始めとするヨークの息子たち、エドワードとクラレンス公ジョージも居ますし、マーガレットも登場します。それに、ヘンリー王や、皇太子エドワードも亡霊という形で登場するのですもの!

 ヘンリー暗殺の後日譚として、リチャードの栄枯盛衰が語られる本作。大きな見所が幾つかありました。
 前半、リチャードがアンを口説き落とそうとすると場面での応酬がひとつ。互いの言を語尾だけ変えて否定したりと、同じ表現を使いながら全く正反対のことを言うのです。ここの台詞は、舞台から発せられたなら実に耳に鮮やかだろうと思います。
 もうひとつは、兄をはめて抹消しようと態度をころりと裏返すリチャードの変わり身の早さ。とても器用な人なのだけれど、王位に就くことに終始し、そうしてからどのような世にしていきたいとか具体的な目標はなく、自分より上位にいる王位継承者を排斥してしまって以後は、じりじりと盛り上がっていく物語のピークがその時点でぷつんと終わってしまった感じがしました。リチャードの場合、優柔不断なヘンリーと比べれば独裁的ではありますが明らかに敏腕ですが。
 最後は、亡霊が次々と夢枕に現れ、リチャードとリッチモンドに言霊を残していく場面。鵜山さんの演出で、今回の「ヘンリー六世」カンパニーが「リチャード三世」を創ったら、ここの演出はどうなるの?とそればかりが気になる場面でした。
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美しい幻想を見せる「テンペスト」
 国立劇場(小劇場)の文楽9月公演、その第三部(夜…!)がシェイクスピアのこれをもとにした「天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)」でした。読み下すと“天変(てんぺん)斯(か)くて止み嵐后(のち)に晴となる”。

 どろどろと復讐心を燃やしていたプロスペローの心が溶け…と言うか、厳密には彼の心を覆っていた黒雲をエアリエルが清らかな風で吹き飛ばした、という流れになるだと思います。まさに嵐后晴。素直で屈託のないエアリエルは、とても可愛らしいです。

 リズムのあるシェイクスピア節は、駄洒落のような韻を踏んだりしているのだけれど流麗で、珠玉の言葉が集められている印象です。作りこんだり取り繕ったりした感じがなく、エアリエルのようにとても清々しい。「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「ヘンリー六世」のどれもに共通するのは、その言葉の美しさだと思うのです。

 同時に、今まで見たことのない世界だったので新鮮でした。と言うのも、上記の3作品がいずれも、人間たちの世界で起こる人間模様を描いたお話であるのに対し、この「テンペスト」には妖精が登場して術を用いるからです。前述したように、何の力みもなく素敵な言葉で語りかけてくるので、この世のものとは思えぬ幻想的な光景が鮮やかに広がるようでした。魔法の世界に遊ぶような、ゆるりとたゆたうような、別の時間を生きるような…これをどのように舞台上に表現したのか…観たかったなぁ!

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念願の「ノートル=ダム・ド・パリ」
 コウモリの飛び交う夏祭りによって凡そふた月の中断を余儀なくされましたが(笑)、購入から半年という牛歩で漸く読了いたしました。

 建造物の丁寧すぎる描写や、嫉妬に狂う感情描出が凄まじく、動画サイトなどに上がっているアニメーションで垣間見る雰囲気とはまるで違っていました。「レ・ミゼラブル」ほど格調高くはないものの、徹底して人間の情欲の生々しさを謳い上げて、終始炎のようです。そういうフロロが、自分の欲望をしまいこんだつもりでひっそりと立っているからか、カジモドの清らかさが浮かび上がって見えました。

 前述の通り、感情の描き方が本当に凄い。特にフロロについては、醜く渦巻く炎の塊なのかもしれないと思わせる、猛り立った獣のような感じさえします。実際、『抑えがたい欲望』とはこういうものなのでしょうけれど。彼の嫉妬狂いは、最後で見せたカジモドの涙と対照を成しているように思いました。

 主要人物、奇跡御殿の宿なしども、外の出来事はまるで別世界という風情の宮殿に集うやんごとなき人々、哀れなシャントフルーリ…全く違った価値観と、全く違った環境で生活している人々が、同じ街で、ひとつの大聖堂を取り巻いて繰り広げる感情的なスペクタクルは、実に読み応えがありました。

 これは是非とも、プティさんのバレエ作品を観てみたいですね!
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会ってみたい「ユタと不思議な仲間たち」
 劇団四季が配信しているPVより感動が薄味なのは、お話の主題が少し別のところにあるためかもしれません。ミュージカルは‘いじめ’の問題として掘り下げたようですが、親子関係の今昔とか、座敷童子たちの抱える出自にまつわる歴史的背景とか、色々な観点からサイドストーリーが創れそうな余白を残している作品という印象です。想像力の入る余地があるというか、見てみたい・会ってみたい、とワクワクさせてくれる…懐かしい風味の好奇心を刺激されました。

 特に座敷童子たちが可愛らしくて良いですね。間引きと言う憂き目に見舞われ、実の肉親を知らずに来た彼らの抱える寂しい思いや憧れに満ちた心は想像以上に複雑でしょうけれど、彼ら同士で何百年も支え合ってきた、そういう温かなものがゆるやかに感じられます。思いやりに溢れていて、とても優しい。ひがむと言うことがないのです。彼らに比べたら、人間というのは何てちっぽけなのでしょう!

 寅吉じいじの思惑をあれこれと理屈っぽく考えて、こういう発言は控えおこうというユタの子供らしからぬ気遣いが、やや非現実的かとも思われましたが(12歳だもの、身内にはもっと自由に発言しても自然だと思うのです)、そんなことが気にならなくなるくらい9人の座敷童子がとにかく可愛くて、夢中になって読みました。

 今夏の公演は観に行けないので、次回のお楽しみということに致します。
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真実にめざめる「春のめざめ - 子どもたちの悲劇」
 14歳の彼らが交わす、秘密めいた会話が生き生きと脈打っていました。些細な下ネタでたいそう盛り上がった、中学時代を思い出しますね(笑)。誰しもが興味を持っているけれど、とても大きな声で聞き得ないことに、後ろめたさよりも好奇心が先立つ様子が感じられ、コウノトリの正体がどうのというより、なぜ当然の営みを大人たちが顔を真っ赤にしてひた隠しにするのかが理解できない、といった風です。

 大人たちから理不尽な抑圧を受け続ける中、メルヒオールは本能を爆発させ、ヘンスヒェンとエルンストはいわゆる‘あるべき姿’から外れていく。ただ一人だけが、押さえつけられるがままに押しつぶされてしまいます。彼の名はモーリッツ・シュティーフェル。彼が絶望の淵でもがく姿には、心が痛みます。とても素直で、本当は繊細で、脆い子。友達思いで、優しい子。爆発させるにはエネルギー不足で、別の道を選べるほど器用ではなく…。

 まだ理性より本能が占める割合の大きな子供たちの悶々たる感情が鮮やかで、痛ましくて、もし本当に正しい真実を教授したなら、彼らはどんな風にそれを受け止め、人を愛しただろうか。そればかりが頭の中を巡っています。

 舞台設定当時の情勢を揶揄するような表現や、様々な暗喩がそこかしこにあって、正直解りにくい面もありましたが、面白い作品でした。彼らの姿は二次性徴を迎えた年齢として当然のものだったのでしょうけれど、書き起こすとセンセーショナルに見えるのは、時代が時代なだけに頷けますね。

 モーリッツの首や、ヘンスヒェンとエルンストにまつわるブドウ畑の場面などが、舞台上にどう描き出されるのか興味があります。今期公演中に自由劇場に行けたら良いのですが…。
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「壁抜け男」を読んだ
 こちらも劇団四季のレパートリーとなっている作品の原作です。残念ながら、6月は別の公演との差し替えになってしまった「壁抜け」ですが、本を読んだら一層観てみたくなったので、そのうちにまた上演の機会を作って欲しいです。壁抜けの場面をどういう風に視覚化するのか、とても興味があります。

 文体がとても流暢な印象で、語り口も自然体。読みやすかったです。弁舌の巧みな街頭の新聞売りからデュティユルの話を聞いているかのようでした。彼のしたことは、恐らく誰しもが理性で押し殺していることであるので、自分をデュティユルに、いけ好かない奴を次長に置き換えて読んでみると、何と溜飲の下がることでしょう!

 また、哀れな末路を辿った彼の姿を見ていると、決して他人事ではない気もしてくるのです。不道徳な方角から耳をくすぐる悪魔の囁きによろめき、一度でも味を占めるとそのまま、享楽に耽り、浴し、溺れ、沈んでゆく人間の哀しい性を、とても魅力的で時に滑稽なデュティユルという人物を通して見せ付けられ、自分の中にも例外なく潜む、手に負えない悪童の存在を突き付けられたような気分です。

 この本には全5編の物語が収録されていますが、表題作のみですと15分くらいで読了できましたので、またすぐにでも読んでみようと思います。
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読んで済ます?「ウェスト・サイド物語」
 今回のWSS全国公演に行くことができないので、ミュージカルを下敷きにして書かれたという本書を読んで気を紛らわすことにしました。

 とにかく勢いがありました。ジェット団の連中もシャーク団の連中も、動物的な感覚で駆け回っているという感じです。敵と見なせば牙を剥いて威嚇し、お互いに引かないと解れば引っ掻き合ったり咬みつき合ったり、どちらかが観念するまで続く縄張り争いが始まる。客観的に見たら、若さゆえの短慮だとか無鉄砲さだとかに目が行きますけれど、彼らは自分の感情に馬鹿正直で、一般住民には害悪を及ぼすし彼らだけの狭小な社会ではありますが、集団の中での自分の立場をそれなりにわきまえていると思うのです。それなりに。恐らくそれだから、反社会的な感情に相当するものを押し殺して生きている私たちが彼らを見ると、悪い手本にしかなり得なくても生き生きして感じられるのかも知れないですね。

 ハッとするような鋭い描写もちらほら。とりあえず書き留めておきたいのは、ベルナルドを描写するこの文章。
 ベルナルドは驚くほどハンサムだが、唇は冷酷に薄く、目は、いつか見たワナにかかった野獣のそれのように、恐怖の色をにじませ、それでいて煮えたぎる憎悪を放射していた。彼の抱きもつ憎しみは、めったに言葉として外へ出ないが、それだけにまた騒々しい怒りよりも恐れられていた。
 本書38ページより引用

 血気盛んで、気に食わないことにぶつかるとキャンキャン喚き立てるよりも、表情が凍り付いて瞳の奥が燃えているような、沈黙した怒りの表現に出会うとゾクッとします。気を紛らわそうと思ったのに、寧ろ心が乱れておりますよ。萩原ベルナルド…!
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「夢から醒めた夢」を読んだ
 劇団四季がレパートリーとしている同名ミュージカルの原作本です。私が国内作家の著作を読むとすれば専ら古典に偏っているのですが、珍しく現在作家の作品を手に取りました。

 舞台版の粗筋を読んでからでしたので、書店で見つけたときにその薄さに驚き、読後感も予想していたよりとてもあっさりと感じられました。やはり舞台はドラマティックに創られているのだという印象です。それでも、ピコタンが相手の心情を推し量って手を触れるのを躊躇する場面に流れた(であろう)一瞬の静寂は伝わってきました。ピコタンの無垢な心や、(舞台ではマコという名前の人物に当たる)少女に寄せる素直で嫌味ひとつない同情とか、子供だからこそ持ち合わせている理屈とは別物の本能のような率直な感情に心洗われる思いで読みましたが、これが目の前の舞台で、衣擦れや息遣いや、照明が落とす影を見ながら物語の中に入って行ったなら、本書よりももっと多くの者と出会うことで生まれてゆく(と勝手に想定している)、ピコタンの中でせめぎ合う色々な思いがこちらに直に流れ込んで涙が込み上げてしまうかも知れません。

 童話のような親しみやすい語り口で、ものの十数分で読み終えてしまいました。
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